ホーム > 検査医からのコラム > 臨床検査の重要性を教えたポンペ先生

検査医からのコラム

検査医からのコラム

臨床検査の重要性を教えたポンペ先生

  上平 憲                                                                                長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
  臨床検査医学兼病院検査部教授            

 

 

 

  最初のコラムは格調の高い内容で歴史と検査の融合が違和感なく書かれている。濱崎九大名誉教授の歴史の記載のついでに、私はもっと身近な日本における西洋医学の導入期に臨床検査がどのような位置づけであったか紹介したい。

   人類は、有史以来自分の身を守る為に自分自身で臨床検査を学び取り、それを実行して生き延びてきたという。そして、約150年前にRobert Kochの細菌学やFÖllingがフェニ-ルケトン尿症の原因が代謝酵素の欠損であるという大発見をしたことがブレイクスル-となって、徐々に医療に於ける臨床検査の重要性が認識され、現代の姿になったという。この約200-150年前、即ち1850年前後は近代医学の基礎となっていることが次々に発見された時期でもある。例えば、Edward Jenner(1749-1823)の痘瘡ワクチン、Rudolf Virchow(1821-1902)の細胞病理学説もこの頃である。

   一方、日本の150年前といえば、一昨年の某放送局の大河ドラマ「龍馬伝」にあったように、坂本龍馬が長崎の街を走り回っていた頃である。私の勤務する長崎大学医学部は幕府の命を受けて、本邦最初の西洋医学校としてオランダ軍医ポンペ・ファン・メールデルフォールトが松本良純以下12人の日本人に体系的西洋医学教育をした1857年11月12日を開校日とし、2007年に開校150周年祝賀会を開催した。ポンペ先生の指導にて設立されたその医学校には、設立当時より臨床検査医学部門はあったらしく、ポンペ先生自身の「分泌排泄中に顕わる有無両機分を舎密術(chemie)および顕微鏡をもって之を験査し病徴を説」 と題した講義の内容がのこっている。その講義の序論に、「今茲に顕微鏡及舎密の験査を細論するのは治方に尤も緊要であり、 古方を去り新説に著く事が肝要」と今の科学進歩の早い時期につうじる先進的な内容となっている。設立当初より、検査の重要性と病気を検査をとおして科学的にとらえるまさしく現代医療に通じる講義であったと思われる。その詳細は日本検査血液学会誌(第6回日本検査血液学会特別講演)。

   医学校が設立されて4年後の1861年9月20日に長崎市内の小島に所謂大学病院が落成開院した。 一方、長崎大学病院の検査部は、本病院の開設100年にあたる記念すべき1961年に「中央検査部」として開設された。そして叉、病院開設150周年の記念日の2011年6月20日の数ヶ月後の2011年9月10日に医学部内の良順会館にて、中央検査部の50周年記念講演会と懇親会を、九州地区の大学病院の検査部長など多数の参加者を迎えて開催した。

   私は1995年に臨床検査医学教授兼検査部長に就任したので、検査部の歴史の約1/4に相当するここ15年間を担当したことになる。私が就任当時は、検査の自動化システム化が進み、形質検査としての一応の完成域に達して、むしろ検査部の存在感がないまま「検査結果」が医師の手もとに容易に届くために、逆説的に病院内での検査部不要論さえでる時代であった。医療における臨床検査は、全ての医療判断の唯一の科学的根拠となり、無くてはならないものであるにもかかわらず、病院検査部のあり方が主に経済的観点から院内での検査実施の不要論まででる程、検査部内では暗い時代であった。そこで、私は就任直後から、大学病院の他病院や民間受託検査センターとの違いは、研究的検査とco-medical staffのより高度な知的貢献と考え、臨床検査技師の意識改革と技術の改革に努めた。

  その手段として、卒業以来のATL研究で培った技術などを戦略とした。幸い、ATLは白血病で代表的な血液疾患であるが、学問分野としては、決して血液学分野にとどまるものではなく、ウイルス感染症学、血清疫学、細胞性免疫学、変性炎症性・神経性学、サイトカイン学、分子生物学など網羅的に広範囲に関わっており、まさに全診療科・全医学領域をカバーする臨床検査そのものとも言い換えられるような学際的である。

   そこで、私は当検査部のこれまでの歴史と私のATL研究の背景を応用して、長崎大学病院検査部を個性化することで、厳しい医療・検査環境を乗り越え、病院検査部門の存在価値を高めようと考えた。しかも、新しい検査の導入が医療の質を上げるのみでなく、その結果の蓄積から再び次の新しい物が見えてくる、所謂研究と一体化しているものを取り入ることにした。そこで、まず最初に、おそらく日本で最初と思われるHTLV-1 provirusのSouthern blot遺伝子検査をルーチン検査として導入した。このサザンブロット検査は、古典的で遺伝子検査の基本的なゲノム検査法の一つであるが、一定の技術と長い時間と労力を必要とする為に病院検査にはむしろ不向きである。 われわれは、幾つかの点で改良し、時間の短縮化と結果の保証するquality control をシステム化した。すでに約1000検体のHTLV-1 Southern blotを実施し、そのデータはSBH-Data Bankとして保存され、貴重な財産として成長し続けている。

  このようにポンペ先生が最初の臨床検査医学の講義で述べられたことは、検査の重要性・治療指向的検査・先進的検査としてまとめられ、この三原則は生命科学の進歩した現在にも通じるものである。このように、臨床検査の基本的なことは有史以来一貫しており、医学に於ける役割の大きさを示している。     

 

 

このページの先頭へ