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 N-SPC® ヒトγδ型T細胞増殖キットは、には、新規γδ型T細胞抗原、専用Medium、Growth factorが含まれています。このキットを用いることにより、抗腫瘍活性および抗ウィルス活性を有するVγ2Vδ2型T細胞(Vγ9Vδ2型T細胞とも呼ばれる)を、短期間で効率的に増殖誘導させることができます。

背景・原理

PD-1免疫チェックポイント阻害剤の登場により、がん治療は新たな局面を迎えている。これまでがん治療の標準療法となってきた外科手術、放射線療法、化学療法に加え、がん免疫療法が大きな注目を集めている。中でも、これから研究が盛んになる分野としてがん免疫細胞療法があげられる。
がん免疫細胞療法に用いられる細胞としては、αβ型T細胞、γδ型T細胞、NK細胞、NKT細胞などの抗腫瘍性免疫エフェクター細胞や、それら細胞を特異的に活性化させる樹状細胞が注目されている。しかし、これらの免疫細胞を効率的に増殖誘導し、GMP規格化を行うのは非常に困難を伴う。短期培養の場合、免疫細胞の機能はよく保たれるが、十分な数を確保することは困難である。一方、長期培養の場合、十分な数を確保することが可能であるが、免疫細胞の機能を維持するのは困難である。特にT細胞の培養は、培養11日くらいを境に、機能の低下がみられるため、十分な治療効果を期待することができなくなる。
 
 ヒトγδ型T細胞には、Vδ1型やVδ2型が知られているが、本キットは、抗腫瘍活性の高いVγ2Vδ2T細胞特異的に増殖誘導するためのキットである。(Vγ2は別名Vγ9型とも呼ばれる。)
 γδ型T細胞抗原としては、ピロリン酸系抗原と窒素含有型ビスホスホン酸系抗原が存在する。両抗原ともメバロン酸経路と密接に関係があり、前者は、メバロン酸の下流に位置するイソペンテニルピロリン酸(IPP)およびその誘導体である。後者は、IPPの直下流に位置する酵素であるファルネシルピロリン酸合成酵素(FPPS)の阻害剤であり、細胞内にIPPを蓄積させる作用を有する。
本キットで用いられている新規のγδ型T細胞抗原は後者の一種であり、現在上市されている窒素含有型ビスホスホン酸(ゾレドロン酸、アレドロン酸、パミドロン酸)と比較すると1000倍以上のFPPS阻害作用を有している。
γδ型T細胞抗原によるFPPS阻害とIPPの細胞内蓄積
 
 
本キットに付属されているγδ型T細胞抗原をマクロファージなどの抗原提示細胞に作用させると、細胞内のFPPSが阻害され、IPPが蓄積する。このIPPの上昇をブチロフィリン3A1(BTN3A1)がセンサーとして認識すると、BTN3A1依存的にγδ型T細胞が抗原提示細胞を認識し、γδ型T細胞受容体依存的に刺激が入る。ここに本キット付属のGrowth factor AおよびBを添加すると、γδ型T細胞が特異的に増殖する。
γδ型T細胞の抗原認識機構と増殖誘導
 
 
  1. γδ T cell antigenを末梢血単核球に作用させる。培地はキットに貼付されている専用Mediumを用いる。
  2. γδ T cell antigenがモノサイト内に効率的に取り込まれ、FPPSが阻害され、細胞内のIPP濃度が上昇する。
  3. 細胞内のIPP濃度が上昇したモノサイトをBTN3A1依存的にVγ2Vδ2型T細胞が認識し、増殖誘導サイクルに入る。
  4. 培養開始後、5~6日間は、Growth factor A専用Mediumを用いてVγ2Vδ2型T細胞を増殖誘導する。
  5. その後はDay 10~11まで、Growth factor B市販のRPMI1640培地(10%FCS添加)を用いてVγ2Vδ2型T細胞を増殖誘導する。

特徴

  1. 健常成人末梢血単核球画分にγδ T cell antigenを作用させ、Vγ2Vδ2型T細胞をGrowth factor Aの存在下で5~6日間培養し、その後、Growth factor Bの存在下でさらに4日~5日増殖誘導すると、CD3陽性細胞に対するVγ2Vδ2型T細胞の割合が95%程度以上になる。また、Vγ2Vδ2型T細胞の数は培養10日~11日間で1000倍程度になる。
  2. 本キットに貼付されているMediumは、他の市販されている培地と比較して、培養初期段階において、高いVγ2Vδ2型T細胞増殖誘導性を示す。
  3. 本キットに貼付されているGrowth factor A (Day 0~Day 5) およびGrowth factor B (Day 6~Day 11) で増殖誘導したVγ2Vδ2型T細胞は、死細胞が少ない。
  4. 本キットで増殖誘導したVγ2Vδ2型T細胞は、高い腫瘍細胞障害活性を有している。
  5. 本キットで増殖誘導したVγ2Vδ2型T細胞は、高いサイトカイン産生性を有している。

使用例

本キットを用いたγδ型T細胞の増殖誘導の典型例。成人末梢血単核球に本キット付属のγδ型T細胞抗原を添加し、Growth factor AおよびGrowth factor Bで増殖誘導し、11日間培養した。その結果、2.91%だったγδ型T細胞が99.74%となり、細胞数も1000倍以上に増殖した。11日目にはCD25の発現も確認され、細胞は機能的に消耗していない。
γδ型T細胞抗原を用いた成人末梢血γδ型T細胞の増殖誘導
 
 
本キットにより増殖誘導したγδ型T細胞の細胞障害性を、同社から発売しているN-SPC非RI細胞障害性アッセイキット(NSPC-1)を用いて検討した。標的細胞は、本キット付属のγδ型T細胞抗原で処理したものを用いた。
その結果、40分間でE/T比依存的な細胞障害性が観察され、E/T比80:1で50%以上、40:1で約45%の比細胞障害率が得られた。このように、本γδ型T細胞増殖キット(N-SPC-2)を用いることにより、効率的に、短期間でエフェクター機能を有した高純度のγδ型T細胞を得ることが可能である。
γδ型T細胞による腫瘍細胞傷害性
 
 

参考文献

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Analysis of the effector functions of Vδ2 γδ T cells and NK cells against cholangiocarcinoma cells
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Yasuhiro Umeyama, Hirokazu Taniguchi, Hiroshi Gyotoku, Hiroaki Senju, Hiromi Tomono, Shinnosuke Takemoto, Hiroyuki Yamaguchi, Mohammed S. O. Tagod, Masashi Iwasaki, Yoshimasa Tanaka, and Hiroshi Mukae
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Daisuke Okuno, Yuki Sugiura, Noriho Sakamoto, Mohammed S. O. Tagod, Masashi Iwasaki, Shuto Noda, Akihiro Tamura, Hiroaki Senju, Yasuhiro Umeyama, Hiroyuki Yamaguchi, Makoto Suematsu, Craig T. Morita, Yoshimasa Tanaka, and Hiroshi Mukae
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Determination of human γδ T cell‒mediated cytotoxicity using a non-radioactive assay system
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Satoshi Mizuta, Mohammed S. O. Tagod, Masashi Iwasaki, Yoichi Nakamura, Hiroaki Senju, Hiroshi Mukae, Craig T. Morita and Yoshimasa Tanaka
Synthesis and immunomodulatory activity of fluorine-containing bisphosphonates
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Tanaka Y, Murata-Hirai K, Iwasaki M, Matsumoto K, Hayashi K, Kumagai A, et al. Expansion of human γδ T cells for adoptive immunotherapy using a bisphosphonate prodrug. Cancer Sci (2018) 109(3):587–599.
 
田中義正 γδ型T細胞を用いたがん免疫療法. アレルギーの臨床: 945 2018年7月号
 

キット構成

製品番号
製品名
回数
包装
価格(税別)
NSPC-02
N-SPC®ヒト γδ 型T細胞増殖キット
N-SPC® Human γδ T cell expansion kit
3回用
1キット
¥98,000-
※ 本製品は、長崎大学で得られた基礎研究成果を元に製品化されました。
※ 本製品は研究用試薬であり、それ以外の目的に使用しないでください。

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